
第45回「わら人形にも衣装」
「信子ちゃん、そら似合わん!(信子ちゃん、それは似合わないよ!)」と母。
リサイクルショップで買った薄いグレーの春らしいニットに、ケチをつけるのです。
いいでしょ?春らしくて、と言うと、母は、
「でけん!そら 地味か!(ダメ!それは地味よ!)。年ば取ったら もちっと綺麗か色ば着らなん!(年を取ったなら もう少し綺麗な色を着なくちゃ!)」 と引き下がりません。
もう!何を着たってわたしの勝手でしょ!
しつこい母に なんだか腹がたってきます。
すると母は自分の部屋へ行き、何やら持って戻ってきました。
「こるば着てみなっせ(これを着てごらん)」と 見せられたのは、ラメの入った赤っぽいピンクのベスト。母の友達が編んでくれたものだとか。
いらないよ、と断っても、
「よかけん着てごらんて!(いいから着てみなさいって!)」と、無理やり押し付けます。
渋々着てみると、母は満面の笑顔で言いました。
「ばあ!よう似合うたい!(まあ!よく似合うじゃない!)こらぁ、わら人形にも衣装ばい!(これは、わら人形にも衣装だわ!)」
……
……💧
あの、
お母さん、
それを言うなら、
馬子にも衣装、じゃないの?
…
「あら?そがんだったろか?(あら?そうだったかしら?)」と母。
うん。わら人形だったら、呪いでしょ?呪いを込めて、わら人形に五寸釘を打ち付ける、時代劇のあれよ、と説明したところ、
「ばあ!そがんだったねー!(あらあ!そうだったねー!)」と驚いた声をあげました。
「どーか、そら おおごつ!ごめん、ごめん、(どうしましょ、それは大変!ごめん、ごめん)」と謝った母は、
「信子ちゃんば呪やせん せん!そらせんばい!(信子ちゃんを呪ったりしない しない!それはしないわよ!)あははは」と笑いだしました。
母が あんまり愉快そうに笑うので、わたしもつられてしまいます。
あはははは
あははははは
86歳の母と62歳のわたし。
二人で笑い転げる春の午後です。
外はとってもいい天気!
この派手なベストを着て、一緒にお出掛けしようか?お母さん。
コメント
この記事へのトラックバックはありません。
この記事へのコメントはありません。