5月病とタイムマネジメント

昭和の時代には,大学生=暇 というイメージがありました。

特に,失礼ながら,文科系学生は時間に余裕があると思われていました。

ところが令和の今日,学部を問わず大学生は忙しいのがデフォルトです。

例えば政経学部1年のAくんの場合,月曜から金曜まで平均4コマの講義に加え課題提出,奨学金を借りているので週3でバイト,それにサークル活動などなど……

「#勝手に応援部」では,忙しいあなたのタイムマネジメントを勝手に応援します!

***

脳科学の見地では,人は7つ前後のタスク(するべきこと)しか同時に把握できないとか。それを超えると途端にパニックとなり,「とにかく忙しいけど何から手をつけていいか分からない状態」に陥ります。

処方箋は,タスクをすべて書き出して可視化し,優先順位をつけて順に処理していくこと

この有名なマトリックスをどこかで目にした方は多いでしょう。

あなたのすべてのタスクをこの4象限のどこかに分類していきます。

  • 緊急度が高く重要度も高い= 第1象限に分類されたタスクが最優先なのは当然ですが,
  • 緊急度は低いが重要度は高い= 第2象限のタスクが実は肝です。このタスクを意識的に優先して入れていくと,生活が充実してきます。
  • 緊急度は高いが重要度は低い= 第3象限のタスクは引き受けないか,できるだけ回避して減らします。
  • 緊急度も重要度も低い= 第4象限のタスクは,忙しいなら,そもそもしないで済ますか人に任せるかです。

***

ここまでは世間でよく言われるタイムマネジメントの定石ですね。

しかしです。── 実はここであなたは,とても大切なところに足を踏み入れています。

そもそも,何が重要で何が重要でないかを,何を基準に決めるのですか?

あなたの抱えているタスクを何となく直感で4象限に分類すると,図らずもそこに,あなたの価値基準が浮かび上がるのです。

上の図が,政経学部のAくんのものだとすると,透けて見える彼のプロフィールは……

  • 真面目で成績優秀な学生,世界情勢や経済に関心が高い
  • 将来はビジネスマン志望,MBA留学も視野にある
  • 地方出身,郷里の家族を大切に思っている
  • 自分の専攻と志望する職業の方向性にずれがない

ところが,同じ政経学部のBくんの場合は……

  • とりあえず政経学部に入ったけど,授業にあまり関心はない
  • 留年しない程度に単位は取ろうと考えている
  • 中高生時代から映画が好きで,映画サークルに入り自主映画作りに熱中している
  • YouTuberとしても活動中
  • 将来は映画の現場に入りたい,夢は映画監督。
  • 映画の現場は体力勝負,運動は欠かさない
  • 好きな映画やドラマとともに,教養として古今東西の名画は一通り見ておきたい
  • 映画の舞台となった外国を歩いてみたいと漠然と思っている
  • 地方出身,郷里の家族を大切に思っている

Bくんは,在学する学部と将来の方向性が必ずしも一致しないようです。

それでも,好きなことがはっきりとあり,そこに情熱を傾けているので,それなりに充実した学生生活を送っているようです。

学業の成績はともかく,AくんもBくんもいわゆる「意識高い系」かもしれませんね。

 

さて,Cくんの場合は……

  • とりあえず自分の成績で入れそうないちばん偏差値の高い大学にすべりこんだ
  • 合格し,受験勉強が終わると,目標を見失った
  • 政経学部の授業にあまり関心を持てない
  • ほかにやりたいことも今のところ別にない
  • 将来の自分の職業をイメージできない。大学の4年間で何か見つけられたらと漠然と思っている

自分は「意識低い系」だから,と自嘲気味なCくん。

***

Cくんのケースは5月病にかかる可能性が高いかもしれませんし,5月病はまれなことでもありません。

5月病とは,春の入学・入社シーズンに新しい生活が始まり,ゴールデンウィークを過ぎた頃,学業や仕事にやる気が起きず無気力状態に陥る,といった症状の総称で,正式な病名ではありません。

食欲が落ちたり,よく眠れなかったり,会社や学校に行くことができなったり……症状の重い軽いはあっても4割以上の学生が経験すると言われ,5月病の学生をどうサポートするか大学側は頭を悩ませているとか。

5月病とざっくり言っても,うつ病,適応障害,パーソナリティ障害,発達障害,パニック障害,睡眠障害など,様々な診断の可能性があります。症状の引き金となるストレスを和らげるべく,一般にはこのような対策が勧められています。

  • 趣味や好きなことを続けて,ストレス発散する
  • 体を動かしてみる
  • 寝る時間,起きる時間を決めて生活のリズムを整える
  • 共感してくれる友達と悩みや愚痴を分かち合う

まあ,それができたら苦労はしないんですけどね。そもそも好きなことに邁進しているBくんのようなケースは5月病になりにくいと言えます。

じゃあ「意識低い系」はダメなのかといえば,決してそんなことはないです。

解剖学者の養老孟司氏は,「自分に合った仕事を探している」という若者に「おかしい」と言い,「仕事というのは、社会に空いた穴です。道に穴が空いていた。そのまま放っておくとみんなが転んで困るから、そこを埋めてみる。ともかく目の前の穴を埋める。それが仕事というものであって、自分に合った穴が空いているはずだなんて、ふざけたことを考えるんじゃない」「仕事はおまえのためにあるわけじゃなくて、社会の側にある」と記しています。(養老孟司著『超バカの壁』より)

***

キリスト教系の学校のことをミッション・スクールといいます。

ミッションとは使命のことです。国際宇宙ステーションに滞在する宇宙飛行士にミッション・スペシャリストという肩書きがありますよね。キリスト教社会には,人はこの世で果たすべき,神から託された使命(ミッション)をもって生まれたという考えがあります。

アドラー心理学では,幸福であるには3つの条件を満たす必要があると言います。今っぽくいうと……

  1. 自分が好き,わたしは結構イケてると思う
  2. 周りのみんなもいいヤツで,頼りになる
  3. わたしはみんなの役に立ってる

アオハルっぽい,いい感じのクラスで,文化祭の準備をしている,みたいな雰囲気ですね。そうか,幸せってこんな感じなんだあ。

本来は,1.自己受容 2.他者信頼 3.貢献感,なんですが。(アドラー先生ごめんなさい!)

これはキリストの教えそのものです。新約聖書にある

  • 自分を愛するように,あなたの隣り人を愛せよ」(Love thy neighbor as thyself.)マタイによる福音書 第22章39節
  • 仕える人となり〔なさい〕」(Let him be your minister.)マタイによる福音書 第20章26節

この2か所だけで,アドラーの幸福の3条件はカバーされていますよね。だから「幸ずれ(知らせ)」=「福音書」なのです。

「ミッション」に話を戻すと,人や社会にどう貢献するか(仕えるか)の「ミッション」は,自分で決めるのではなく,与えられるものだということですね。キリスト教文化に基づく社会では「神に」与えられるものと考え,養老孟司氏は「社会」に与えられるものと考えるかもしれませんが。そうして「置かれた場所で咲く」= 与えられたミッションにおいて貢献する,ことが幸せへの道となるわけです。

***

だから,「意識高い系」も「意識低い系」も,やがては自分に与えられたミッション(天職)と出会うことになります。でも。それはあなたが当初思い描いていたミッションとは全然違う,意外なものかもしれません。それでも,出会ってしまえば必然であり幸福な運命のように思えてくるから不思議です。

今の時点でただ待っているよりは,暗中模索でもどこかへ向かっていくのは悪いことではありません。それが(日本的に言えば)何らかの「ご縁」となって,自分に与えられたミッションとの出会いへと導くかもしれませんから。スティーブ・ジョブズが学生時代に受けたカリグラフィの授業が,そのときは何の役に立つのか分からなかったものの,のちに,美しいフォントを備えたMacintoshコンピューターに結実したのはあまりにも有名な話です。

5月病から抜け出すドアはそこにあるのかもしれません。そのヒントとなる図を最後に掲げておきましょう。

ジェームス・ケイ氏は,「【キャリア論】僕が新卒の時に知っておきたかった「天職」の4つの条件とその探し方」と題する文章で以下の図を示し,こう述べています。(詳しくはリンクをご覧ください!)

天職とは以下の4つの条件を満たせる仕事のことです。
・LIKE:自分が好きなこと、やっていて楽しいこと
・CAN:自分が得意なこと、人よりもできること
・NEEDS:社会が求めていること、社会に貢献できること
・PAID:きちんとお金を得られること

これら4つの条件が重なるもの、それが天職です。つまり、自分が好きで、得意で、社会に貢献でき、そして食っていける仕事ということです。」

養老孟司氏の場合,東京大学医学部の解剖学教授として,医学生に遺体の解剖を教えてきました。それはNEEDSとCANとPAIDを満たした仕事でしたが,解剖学は養老氏が好んで選び取ったのではなく,消去法的に進んだ分野だそうです。また,養老氏は長く昆虫採集を続けており,これはLIKEとCANを満たしましたが,社会的ニーズもなくお金にもならず,文字通りの趣味でした。一方,教授時代に上梓した『唯脳論』で社会に知られた養老氏は,東大を退官した後に,『バカの壁』をはじめ多数の著作がベストセラーとなり,講演にも引っ張りだことなりました。この著述業が案外,養老氏にとってLIKE/CAN/NEEDS/PAIDの4条件を満たす「天職」だったのかもしれません。このように,天職に巡り会うのが50代になってからというケースもあるわけです。

この4つの円が重なる場所にあなたの「ミッション(天職)」があります。NEEDSとPAIDは「社会の側にある」ので自分では左右できません。一方,LIKEとCANは自分で決められる,または訓練して伸ばせます。今の自分をこの図にあてはめてみると,どの方向を向いて勉強したり訓練したりすればいいのかクリアになってきますね。

例えば,映画が好き(LIKE)で,仕事にしたい。商業映画のスタッフとなるのは狭き門。でも,企業のウェブサイトで使う映像は広く社会的ニーズ(NEEDS)があり,プロダクション会社(PAID)も多い。今の自分は機材の知識と経験(CAN)が不足しているけれど,自主映画コンテストの入賞を目指すことで現場経験を積むことができるし,作品をアピールして業界関係者とつながれるかもしれない。その方向に向かって今なすべきタスクは何だろう……

この方向性がすなわち,あなたにとって何が重要で,何が重要でないかを判断する基準となります。そうして初めて,あなたのタスクを正しく振り分け,タイムマネジメントすることができるのです。◆

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